塾講師の自由な発想

長い職業生活を考えた場合、当初はふつうの正社員として働き、子育て期に短時間正社員に移行し、子育てが一段落したら再びふつうのあるいは限定勤務地社員になることができれば、個人はキャリアを生かすことができるし、企業にとってもスキルのない人を雇用するよりも利益がある(13)。
だが、こうした正社員身分の導入への意識は、企業サイドではまだ高まっているとはいえない。
コスト白同への懸念のほうがはるかに大きい。
今、パートタイマーの労働力不足が深刻化しているわけではない。
二〇〇二年二月に二十一世紀職業財団が発表した『多様な就業形態のあり方に関する調査』によれば、正社員と同じ仕事に従事している非正社員(14)の割合は三年前と比べて増加しているが、パート等の非正社員を対象に短時間正社員制度を導入しているか、導入を検討中または今後検討する可能性ありとしている企業は約二割にすぎない。
企業にとってみれば、現在の賃金・処遇で十分なパートタイマーを確保できているのだから、コストのかかる正社員などを雇うイソセソティブはないということになる。
しかし、もし正社月とパートの仕事内容や責任に違いがないとしたら、均等処遇すべきであろう。
逆に、パートで十分な仕事を正社員がしているとすれば、そうした仕事がパートに移されるのはやむをえない。
雇用形態の多様化のなかでパートタイマーは増えつづけている。
パートタイマーという働き方がなくなることはないであろう。
しかし、夫婦ともパートタイマーでは生活ができない。
労働時間が短いということと技能・キャリアのない仕事とは必ずしも対応していない。
キャリアを要する、あるいはキャリアを形成する意志のある短時間労働の人たちを正社員として処遇することが社会的に求められているのである。
もちろん、企業にとっての問題は人件費である。
これについては、社会保障制度全般の見直しが必要だろう。
現在のシステムは、非正規雇用、とくにパートタイマーやアルバイトのような雇用を促進させている。
先にみたように、賃金やボーナス以外の労働費用は二割近くに達している。
社会保険料の企業負担分や諸手当などである。
こうした費用の多くはパートタイマーを雇用するときには必要ない。
個人の立場からしても社会保険料は主として正社員が負担するが、パートタイマーやアルバイトは負担しなくてよい。
現在の社会保険制度のしくみが非正規雇用の拡大に大きな影響を与えている。
こうした制度を改善すれば、短時間正社員が必ずしも割高な労働とはならないであろうし、非正規社員が割安な労働ともならない。
私の知る限りまだ誰も提案していないが、私たちはむしろ発想を逆転して、非正社員を雇用するよりも正社員を雇用するほうが、企業にとって有利になる社会保障システムを構築する必要があるのではないだろうか。
企業も技能水準の高い労働力を確保することは利益になるはずである。
そうしたシステムの構築を政労使は考える必要がある。
「M字型就労」のない地域共稼ぎを考える場合、すぐに指摘されるのが、女性の年齢階級別労働力率(一五歳以上人口に占める労働力人口の比率)の推移である。
男性と異なり、女性は三〇代に一度低下しその後再び上昇する。
これを「M字型就労」と呼ぶ。
以前からそうなのだが、日本の女性のM字型就労は望ましくないという議論がふつうである。
この是非については論じない。
ただ、議論のための一つの素材を示すことにしよう。
それは、M字型就労の形が地域によって大きく異なっているという事実である。
とくに、都市圏周辺ではM字型の落ち込みは大きく、北陸や東北では一般に落ち込みは小さい。
ここでは、『国勢調査』(二〇〇〇年)から神奈川県と富山県を例にとってみておこう。
図表3-7をみていただきたい。
まず、神奈川県である。
女性の労働力率は、二五~二九歳の六九・一%をピークとして大きく落ち込み、三〇~三四歳では五一・八%、三五~三九歳で五〇・五%となる。
その後上昇するが、四〇代後半の六二・二%までにとどまる。
専業主婦の最も多い県の一つであろう。
五年前の一九九五年には二五~二九歳が四六・四%、三〇~三四歳が四七・七%であったから、大幅にM字の底は浅くなっている。
次に富山県をみょう。
二〇~二四歳が最初のピークで七七・〇%であり、たしかに三〇代の労働力率の低下はみられるが、その底は神奈川県よりもはるかに浅く、三〇~三四歳で六九・二%、三五~三九歳で七五・九%に達する。
神奈川県の労働力率最高の二五~二九歳のそれと、富山県のM字の底がほぼ同じである。
富山県は、女性就業率が全国第四位で五一・五%(全国平均四六・二%、以下同様)、女性労働者平均勤続年数は第一位一一・四年(八・五年)、共働き率(17)は第三位五八・三%(四四・九%)、三世代同居世帯割合は第三位二二・二%(一〇・(三三・一%)である(ほ)。
よくいわれるように、保育所の普及や三世代同居が既婚女性の就労に大きな影響を与えている。
やや古いが『就業構造基本調査』(一九九二年)から妻の年齢階級別・世帯形態別に妻の有業率をとると、たとえば、妻の年齢が三〇~三四歳で末子が三歳未満の場合、夫婦と子供の世帯では二六・三%なのに対して、親も同居している場合は四五・七%と二倍弱の差がある。女性にとって継続して就業するために、親との同居(あるいは近居)はやはり重要な要田である。
三世代同居の減少がずっとみられてきたが、今後のことを考えれば、地域をまたがる労働移動が減少傾向にある現在、親との同居や近居は一つの選択肢であろう。
かつては、親との同居、とくに夫の親との同居は、妻を家父長的家族に隷属させるという批判があったが、そうした家族関係は一部のかなり裕福な家族を除けば、今では非常に少ない。
女性の就業には通勤時間も影響を与えているだろう。
神奈川県の場合、東京に通勤する人が多いことが、労働力率のM字の底を低くしている一つの原因であることはまちがいない。
産業構造も影響を与えているだろうが、富山がとくに農業県というわけではない。
むしろ第二次産業比率が高い工業県である。
公表されている『国勢調査』(一九九五年)によれば、就業者に占める第一次産業の割合は、神奈川県一・二%、富山県五・六%、全国平均八・七%、第二次産業がそれぞれ三一・五%、三九・八%、三一・七%、第三次産業が六六・三%、五四・五%、五九・三%となっている。
神奈川県のほうが、富山県よりも女性の就労を阻害する「遅れた」地方だといえるかどうかは微妙な問題である。
また、女性の労働力率がこれだけ高ければ、収入のある仕事をしないと、社会的に男性だけでなく女性も肩身が狭くなる。
家族形成と拘束時間ここでいう拘束時間とは、夫婦時間と子育て時間、労働時間を合わせたものである。
結婚とはそれ自体が自ら好んでおこなう拘束であり、子育ても好んでおこなう拘束である。
労働時間のなかにも好んでおこなう部分もあるが、収入のためにやむをえずおこなう部分のほうが相当大きいだろう。
この三つの拘束以外に、たとえば介護の問題があるが、介護は家族がみるというよりも、介護サービスの充実が図られつつあること、育児に比べればまだ就業阻止効果は小さいので、一応除外しておこう。

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